國王大飯店8月1日読了時間: 3分更新日:8月16日七月の台北市内に降る雨が運んできた湿気はじっとりと肌にまとわりつき、高層ビルとコンクリートで覆われた大都市を練り歩いていた私は此処が熱帯の国だったこと思い出した。台湾の人たちは急な大雨も意に介さず慣れたものでアーケードの上を這う屋根に沿ってスイスイと歩きながら、共に歩く人との会話が切れることもなさそうだった。変わって私と言えば、度重ねる商談を終え悶々と考えていた最中だったものだから、より考えを深めてくれそうな雨だと感じた。良い方に考えが深まればいいが。出張と言っても普段住んでいる島を離れて違う街を出歩くことは私にとって案外良いリフレッシュになるが、この日はロビーに帰り着くと自分がやけに疲れていることに気づいた。ホテルは台北市内にはよくある数十年前に建てられた昭和レトロ調で、今も尚その面影が残る一階の喫茶コーナーでお茶を飲むことにした。ナツメとリュウガンのお茶を注文し会計を伝えられ、小銭が10元足りなく私がしどろもどろしていたら、レジのおばちゃんが「私が10元持っている」とカタコトの日本語で揚々と呟きながら、自分の財布を取り出し小銭を一枚つまんだ。店員さんのポケットマネーで補填?驚きを隠せず流れに身を任せながら感謝を述べた。会計が済むと、部屋まで持って行くから先に戻って待っていてくれと一方的に言われた。私はここで飲んでも良かったが、これもまた身を任せた。冷房が徐々に効いてくる自室でようやく身体を横にできたのと同時に、ノックの音が聞こえた。身体を起こし扉を開けると、満杯に入ったポットとなみなみに注がれたティーカップが乗ったトレーを手におばちゃんが立っていた。にこやかな表情でサラッと私の部屋に入ってきては、ティーセットをデスクへテキパキと置いていく。「ナツメとリュウガンはよくある組み合わせなんですか?」という私の質問には答えることなく、「リュウガンの実、食べると美味しいよ。食べてね」とだけ日本語で呟いてそそくさと帰っていった。爽やかな香りのお茶を啜る。おばちゃんはこのホテルでずっと働いているのだろうか。このホテルがある一帯は俗にいう日本人街で、日式居酒屋や夜のお店がひしめき合う。それもあってかスタッフのほとんどは日本語を喋れた。30年程前、バブル期と円高の影響で日本人が出張先の台湾で豪遊していた時代。ここいらで働く人たちにとって日本人はお金をたくさん落としてくれる存在だったに違いない。あの頃とは打って変わって現在、私を含む多くの日本人は円安不景気で節約滞在だろう。それでもおばちゃんは貧乏な私にとても親切にしてくれた。時代が変わり事情が変わっても人の仁義は変わらないこともある。そういえば私の父も今の私と同じ歳の頃、台湾に出張に行っていたような気がする。たくさんお金を使ったのだろうか?だとしたら周り回って私のところに徳が来た。お茶を飲み切ったので、ティースプーンでガラスポットの中にあるリュウガンををほじくり出し口にした。シェイシェイおばちゃん、ハオハオチー。メモ帳の紙を折って着物の形のポチ袋を作ったら、10元を入れポットの横に置いて眠った。